大学院進学か、就職活動継続か
はじめに
就職活動が思うように進まず、「大学院に進学してから再挑戦しようか」と悩む学生は少なくありません。特に近年は大学院進学率が上昇し、研究職以外でも「院卒」という肩書きが一定の評価を得る場面もあります。
しかし、採用担当者の目線から見れば「大学院進学=就職活動の成功」ではないのが現実です。むしろ、就職活動でつまずいた理由を解消しないまま進学しても、数年後に同じ壁にぶつかるケースが多いのです。
このコラムでは、大学院進学を選ぶ学生の心理と採用側の評価基準を整理しつつ、「就職活動を続けるべき理由」を掘り下げます。そして最後に、大学院進学と就職活動継続の両方を選ぶ場合に必要な準備や改善点を提示します。
大学院進学を選ぶ学生の心理
「逃げ」としての進学
就職活動に失敗した際、「大学院に進めば肩書きが強くなる」、「時間が稼げる」と考える学生は少なくありません。これは一種の「延命策」であり、根本的な課題解決にはなりません。
ブランクがないように履歴書上見えるだけで、ただ年齢を重ねるだけに過ぎません。
「研究への純粋な関心」
研究テーマに強い関心を持ち、学問を深めたいという動機で進学する学生もいます。この場合は進学がキャリア形成に直結するため、採用担当者も評価しやすいでしょう。
「周囲の期待」
親や教授から「院に進んだ方がいい」と勧められるケースもあります。本人の意思よりも外部要因で進学を選ぶ場合、就職活動で再び壁に直面する可能性が高いです。
法科大学院(未修コース)という選択肢
近年、就職活動に失敗した学生が「法科大学院に進学すればキャリアの幅が広がるのでは」と考えるケースも見られます。特に司法試験を本来目指していなかった学生が、未修コースに進学する場合です。
未修コースの現実
法科大学院の未修コースは、法律の基礎から学び直し、司法試験合格を目指す長期的な挑戦です。学習負担は非常に大きく、合格率も決して高くありません。
法科大学院 未修コース司法試験合格率(令和6年司法試験)
修了年度 未修コース受験者数 合格者数 合格率 既習コース合格率 元未修 99 7 7.0% 8.6% 2未修 133 11 8.2% 10.2% 3未修 152 15 9.8% 15.0% 4未修 171 26 15.2% 27.2% 5未修 219 40 18.2% 42.1% 6未修 235 69 29.3% 61.2% ※法務省データ ※6未修とは法科大学院を卒業してから6年目に司法試験を受験した未修コース出身者を指します。
「逃げ」としての進学のリスク
就職活動に失敗したからといって未修コースに進学する場合、本人の適性や覚悟が伴わなければ、数年後に司法試験に不合格となり、再び就職活動に戻ることになります。その時点で年齢的なハンディを背負う可能性が高いです。
採用担当者の評価
司法試験を本気で目指している学生であれば「挑戦心」「専門性」として評価されます。しかし、就職活動からの逃避として未修コースに進んだ場合は「キャリアの一貫性がない」「目的意識が弱い」と見られがちです。
採用担当者の声
ここで、実際の採用担当者の声を紹介します。
大学院進学そのものは否定しません。ただし、進学理由が『就職活動に失敗したから』という学生は、正直なところ評価が難しいです。課題を解決せずに先送りしただけに見えてしまうからです。(大阪府大阪市/教育業)
法科大学院の未修コースに進む学生も見てきましたが、司法試験を本気で目指している人と、逃げで進学した人は面接で明確に違いが出ます。前者は覚悟が伝わりますが、後者は『なぜここにいるのか』が曖昧ですね。(神奈川県横浜市/製造業)
私たち(採用担当者)は、失敗を糧に改善して再挑戦した学生を高く評価します。大学院進学よりも、今の課題に向き合う姿勢こそが社会人としての成長につながるのです。(北海道札幌市/不動産業)
文系大学院も場合、何らかの資格取得をされている場合でも『大学4年間のうちには達成できなかったんだな』という計画性のなさを感じてしまう場面も多いです。(東京都中央区/情報通信業)
四大卒の学生が応募してきているのにわざわざ社会人経験を先延ばしにした大学院卒を採用する理由がないですね。よっぽどの大学出身者でも何かあるんじゃないかと採用を迷います。(東京都港区/金融業)
就職活動に失敗する学生の共通点
- 自己分析不足
- 企業研究不足
- コミュニケーション力の課題
- 行動量の不足
これらは大学院に進学しても自動的に解消されるものではありません。
「大学院に進めば就職が有利になる」という誤解
研究職や専門職では院卒が歓迎される場合もありますが、一般職では「院卒だから有利」ということはほとんどありません。むしろ「学歴に頼りすぎている」と見られるリスクもあります。
大学院進学を選ぶなら、こういう準備をしてほしい
- 進学理由を明確にする(研究テーマや専門職への志望を言語化する)
- 学習計画を立てる(数年単位の負担を生活設計に組み込む)
- 経済的基盤を確認する(学費・生活費の具体的な準備)
- キャリアとの接続を意識する(進学後にどう活かすかを想定する)
- 「逃げ」ではなく挑戦にする(目的意識を持って選択する)
就職活動を続けるべき理由
- 課題解決の場は「今」
- 社会経験の価値
- 時間の有限性
- 採用担当者の本音:「逃げずに挑戦した学生を評価する」
就職活動を続けるなら、こういう改善を意識してほしい
- 自己分析を深める(強み・弱みを具体的に言語化する)
- 企業研究を徹底する(業界動向や企業文化を理解する)
- コミュニケーション力を磨く(面接練習やOB訪問で改善する)
- 行動量を増やす(応募社数や説明会参加を増やす)
- 失敗を振り返り改善する(過去の選考を分析し次に活かす)
採用担当者への指針
大学院進学者を評価する際の基準は明確です。
- 進学理由が明確か
- 成果があるか
- 社会人基礎力を持っているか
- 法科大学院の場合は「司法試験を本気で目指しているか」
おしまい
大学院進学は決して悪い選択ではありません。研究者を目指す人や専門職に直結する分野では大きな価値があります。
しかし、「就職活動に負けたから」という理由で進学するのは、採用担当者から見れば評価が難しい選択です。
法科大学院も同様で、司法試験を本気で目指す人には有効ですが、逃避として選ぶのは危険です。就職活動に失敗したときこそ、自分の課題に向き合い、改善し、再挑戦する。その経験こそが、社会人としての成長につながり、企業からも高く評価されるのです。
就職活動において、失敗した理由だけを話すことは言い訳に聞こえてしまい採用につながることはまずあり得ません。だからこそ、課題を先送りにするわけではなく今の課題に向き合い、改善し、再挑戦することが最も合理的で、未来のキャリアを切り拓く道なのです。


